筑前日誌

この世で起きた事件について語ります

鳥栖両親殺害事件 19歳少年の実名報道の是非

どうもこんにちは、筑前です。

今年3月9日、佐賀県鳥栖市の住宅で夫婦が殺害され、夫婦の息子が逮捕された事件で、実名報道の是非について賛否が別れています。

 

昨年から始まった改正少年法では19歳・18歳を「特定少年」と位置付け、検察の判断で実名公表(報道)が可能になりました。

2021年10月、山梨県甲府市で夫婦を殺害・放火した遠藤裕喜被告(当時19歳)は甲府地検が「結果は重大で地域に与えた影響も深刻」として全国初の実名公表を行いました(新潮が既に実名報道を行っていたが)

しかし当然、日弁連がこれを許す訳もなく「少年法61条に反する」と抗議を行っていました。

世論も「当然だ」「当たり前だ」「厳罰にしろ」と騒ぎ立てておりました。

そもそも19歳・18歳に成人年齢を引き下げたのにも関わらず「特定少年」という訳の分からない扱いをしたり、少年犯罪は年々どんどん減少しているのにも関わらず今更厳罰化を進めたり、色々思う所はありますがその辺は今度話したいと思うので一旦置いておきましょう

 

今回の鳥栖の事件で現在出ている情報をまとめましょう。

容疑者の少年(以下、大学生)は両親とは同居しておらず福岡市に住んでおり、九州大学に通っていました。

事件当日の午前7時半頃、大学生の妹が自宅から外出。

午前10時頃、鳥栖市内の防犯カメラに大学生のものと見られる車が実家方向へ走り去る様子が記録される。

その2時間半後の午後0時半頃、鳥栖市内の防犯カメラに大学生のものと見られる車が反対方面に走り去る様子が記録される。

午後5時半頃、大学生の妹が帰宅し両親の遺体を発見し通報。

そして夫婦の遺体には刺し傷などがあったことから警察は殺人事件として捜査を始める。(しかし、普通なら自宅の前に3台ある車が2台しか無かったことや大学生と連絡が取れなかった事、そして被害者の実名が出なかった事からこの時点で既に大学生が重要参考人になっていた可能性がある)

そして事件後に大学生は160km離れた山口県に逃走。警察はスマホの位置情報から居場所を特定し、午後9時頃にコンビニの駐車場に居た大学生を緊急逮捕

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この犯行が行われた時間は防犯カメラ映像から考えると、約2時間半だと考えられています。

 

ここまでが事件のあらましです。同級生の証言などによると大学生は父親と折り合いが悪かったらしく、大学生は取り調べで「両親に不満があった」「父親から学業を指摘された」と供述しているようです。

しかし、一応の注意喚起ですが、この段階では少年が自分に都合のいい供述している可能性があり、鵜呑みにするのは危険でしょう。(世論が14歳の発言に振り回された弥富の件がいい例です)

 

本題に戻りましょう。彼の実名報道の是非についてです。

まず、この事件では2人も犠牲となっており「特定少年」の2人殺害事案としては甲府事件以来です。本来なら99%実名公表されるでしょうし、死刑の求刑も考えられます。

しかし、本件は被害者は少年の両親であり、いわゆる家族間殺人となっています。家族間殺人は遺族が加害者の家族でもあるという実情も兼ね揃えており、遺族感情が乏しい事から死刑になる確率は一気に下がります。

実際、自分も被害者2人の殺人事件が発生し、犯人が親族だった事が分かった瞬間に死刑の可能性が低くなる。という風潮には疑問視しています

ただ、本件で最大の被害者は少年の妹でしょう。10時間前まで生きていた両親を突然殺され、さらに自分の両親を殺したのは兄だったという事を突き付けられた妹の気持ちは「苦しい」とか「悲しい」とか「怒り」と言ったありきたりな表現ではとても表せられません

妹は何も悪くないのに突然「被害者遺族」になり「加害者家族」になりました。

世論はこの少年に対して厳罰を求める声もありますが、彼を例え死刑にした所で両親が帰ってくる訳でもないですし妹の傷というのは回復しません。ただの世論の憂さ晴らしにしかなりません。

そして、実名報道の是非という話に繋がります。

 

いくら「被害者が身内だけ」「被害者が両親」という理由でも2人も殺めたという事実を絶対に軽く見るべきではないと思っています。

1人の人命を奪った時点で絶対に命は返ってこないし、たとえ死ぬまで一生反省しても償いきれないような大罪です。さらに、2人3人の人命を奪い去った場合というのはどれだけ重大なのかは言わなくても分かると思います。

「特定少年」の実名公表の基準は「結果が重大で地域社会に深刻な影響を与えた」とされております。

そして今回の鳥栖の少年を実名公表しなかった場合、これは前例となります。

これが特定少年の実名公表の基準を決める前例となります。

つまり今回で実名公表をしなかった場合は「2人の人命を奪っても被害者が家族だったら重大事件ではない」というメッセージ、捉え方に繋がりかねません。

これは悪い事をしたやつは実名を出せ!という感情論を言っているわけではなく「これが前例となり、下手したら今後に多大な影響を与える可能性がある」というのを危惧した上での話です。2人を殺害したという事実はたとえ家族だろうと絶対に軽視すべきではないです。

 

一方、実名公表がただの世間の憂さ晴らしと化しているのも事実です。

世間は薄っぺらい感情論や厳罰論を唱え、とにかく「死刑にしろ」「終身刑にしろ」等と言っています

実名報道が犯罪の阻止力になる」と言う方がいるかもしれませんが、そもそも実名報道されたり重い刑罰になる事を理解しないで犯罪に手を染めている者がほとんどなので意味はあまりないです。

そして、先程述べた様にこの事件には1人だけ残された妹が存在しており、「被害者遺族」でもあり「加害者家族」でもある彼女の心痛な声を軽視する事も絶対に許されないのです。

そして少年を実名報道すれば妹に更なる精神的苦痛や二次被害を与える事となるのは言うまでもないでしょう。

 

自分はこの少年に関して実名報道すべきかしないべきかを待望直後からずっと考えていますが、結論は出ません。

実名公表をするかしないかの判断は起訴される時になされますので、まず家庭裁判所に送られ、少年鑑別所に送られ、少年の精神状態や生育環境など数週間の調査が行われ、少年審判で逆送などの決定がされるといった経緯があるので時間がかかると思いますが(18歳以上は原則逆送です)、佐賀地検はどういう結論を出すのでしょうか?